本来の歴史
THE TRUE HISTORY — TIMELINE OF THE DOOMED WORLD
ハイン・セラ・アステールが母への愛を知らぬまま育ち、魔王の器として覚醒し、世界を破滅に導く──それが「本来の歴史」。原作本文(各話末尾の◆◆◆パート(全知視点)およびEP140「ママが好き(完)」総括章)に点在する記述を、年代・地域別に整理した。
ハインの軌跡 ── 魔王の器への転落
ヘルガは夫ダミアンから生まれたばかりのハインの殺害を迫られ、それに同意する。息子の異常性が恐ろしくてならなかったからだ。しかしダミアンは息子を有効活用する方向へ思い直し、結局アステール公爵家で育てられることが決定する。
現行ヘルガが身を挺して息子を庇う。愛を知ったハインはマザコンと化し、全ての運命がずれ始める。
学園入学 ── 典型的悪役貴族としての蹉跌
EP4〜5
本来のハインは傲慢で邪悪な典型的悪役貴族。入学初日にセレナ・イラ・ファフニルを怒鳴り散らしファフニル家を貶め、唾まで吐きかける。馬車の後方からそれを見たアゼル・セラ・アルファイドとの因縁が生じる。
アゼルとセレナが勇者と聖女として覚醒、未熟ながらオルムンドを撃退。ハインは一切手を貸さず冷笑して傍観。
サリオン公爵邸での茶会で、エスメラルダから正式に婚約破棄を通告される。「切れない剣に用はありません」と。
魔術を封じられた状態では勝てぬと悟り、体調不良を装って出場を取り止める。「嫡子が剣術大会から逃げた」という悪評が帝都を駆け巡り、アステール家は十二公家除名の瀬戸際へ追い込まれる。愛を知らず孤立し、自らの力に溺れ、絶望した魂の深淵に魔王の意志がずるりと入り込む。
魔王の器としての覚醒と世界掌握
EP140 総括章
半覚醒状態のハインは禁忌の魔術に次々手を染める。奴隷を贄にした暗黒儀式を重ね、やがて普通の市民まで犠牲にする。最終的にハインは魔王に肉体を乗っ取られ、ガイネス帝国ひいては世界を掌握せんとする。そして勇者アゼルによって討たれるという悲惨な最期を遂げる。
ヘルガの運命
ヘルガはハインが魔王の器となる頃までに「原因不明の病」で死ぬ。原因は魔力だった。魔力は粒──結局は物質であり、他人の魔力の残滓が体内で悪性に変質する病である。師弟関係を結ぶ魔術師に多発し、後世、数千数万という才能ある魔術師が同じ病で命を落とす。
現行ハインが体内に「ハインの粒」を浸透させて保護しているため、ヘルガは死なない。
ガイネス帝国の崩壊
人間至上主義がエスカレート。亜人から財産を没収しスラムへ追放、強制労働、抵抗者は処刑。帝都の広場には毎日のように絞首台が並び、亜人の死体が晒される。やがて恐怖政治は人間たちへも向けられ、逆らう貴族は粛清され、皇帝ヴァルフリードは完全に傀儡と化す。
国力が疲弊し民心が離れた帝国に、東方から旧魔王軍が侵攻を開始。イグドラ率いる竜の大群が帝都を襲う。内乱と外患の二重苦により帝国は滅亡の淵へ追いやられる。
帝都防衛の任を果たさず、ハインがフェンリィを凌辱殺害した一件で亜人種から蛇蝎のごとく嫌われ、剣術大会での醜態と暗黒儀式の噂で十二公家を除名される。
魔王ハインが滅びた後、帝国はアゼル・エスメラルダ・ガルデム・セレナら英雄たちを抹殺する。この裏切りが世界の怒りに火を点け、かつての敵国同士が復讐の旗印の下に合従軍を形成し津波のごとく押し寄せる。十二公家の奮戦で七年は持ちこたえたが、最終的に滅亡する。
注帝国滅亡後も世界平和は訪れず、賢王と呼ばれた者が突如狂って周辺諸国を呑み込もうとしたり、特定の民族を根絶やしにしようとする暴虐の連鎖が続く。
ユグドラ公国 ── 死者の国化
ユグドラの森に築かれた四本の「屍の塔」が完成する。何千何万という冒険者・兵士・無辜の民が贄となり、塔の完成と同時に不死王ファビアンは完全なる姿で現世に降臨する。
死の瘴気が国中を覆い尽くし、生きとし生けるものが次々と息絶え、即座にアンデッドとして蘇る。親が子を喰らい、友が友を殺す。美しい森は腐海に沈み、清らかな湖は血の池となる。溢れ出した死者の軍勢は隣接諸国へ雪崩れ込み、大陸西部は未曾有の災厄に襲われる。
聖女マリーシアの末裔エイラは、本来の歴史では悲劇のヒロインとなる筈だった女。仲間を殺され、自身も捕らえられ、不死王の慰み者として、あるいは新たな魔物を産み落とす苗床として、惨たらしい最期を遂げる運命にあった。
現行ハインによる三本の塔の破壊でファビアンは不完全復活に留まり、エイラの槍で討伐される。エイラは以後「黒衣の神」を崇める異教を始動。
ノルン王国 ── 魔狼の狩り場
元来、勇猛だが狭量で猜疑心の強い男。その心の隙間に魔王となったハインの囁きが入り込む。異母妹の宮廷魔術師アヴィアナを歪んだ欲望の掃き溜めとしていたが、やがて彼女の持つ精霊の血そのものを欲する。
魔王ハインの甘美な囁きに乗せられた彼は、アヴィアナを寝室に呼びつけ、犯し、その柔らかな喉笛に牙を突き立てて血を啜り肉を食む。文字通りの食人である。禁忌の儀式によりグルンベルドは人ならざる者「魔狼」へと変貌する。
理性と人間性を完全に喪失した魔狼は、力と破壊のみを求める獣として自国民を手当たり次第に蹂躙する。ノルンの白い雪原は民の血で赤く染まり、最強の魔術師だったアヴィアナは既に彼の腹の中、精強を誇った竜騎士団も為す術なく屠られる。
現行異母妹アヴィアナがハインの力を知り、王を殺害して自らの目を潰し雪原に消える。
アステール家使用人の運命
フェンリィ ── 四肢切断のダルマ
EP10/EP55
デルフェン種の貴種フェンリィ。本来のハインはその麗しい見目に嗜虐欲を刺激され、彼女を購入する。美しい四肢を切断し、舌を切除し、ただ性欲を受け止めるだけの肉人形にした末に殺害。この事件はアステール家が亜人種から蛇蝎のごとく嫌われる直接の原因となった。デルフェン種の体臭には相手を嗜虐的にさせる作用があり、ハイン自身の残虐性がそれに誘発された側面もある。
現行ハインに購入後、再生治療を施され激烈な忠誠を捧げる「フェリ」として復活。
ハーフオーガのガルデムは本来の歴史では勇者一行の魔王討伐に大きく貢献する英雄。しかし半生は苦難に満ちていた。出自ゆえに「不浄の子」と蔑まれ、奴隷商人のもとで過酷な労働と虐待を受ける。本来のハインは彼の強靭な体躯に興味を抱き、興味本位で購入。名前すら尋ねず、ただの壊れにくいおもちゃとして扱い虐待を加えた。
そんな彼を救ったのが覚醒したアゼル。ガルデムの身柄を賭けてハインと決闘し勝利。食事や衣服を与え、人間らしい扱いを初めて受けたガルデムは静かに涙を流しアゼルへ忠誠を誓った。
名の差異アゼルが名を尋ねた時、衰弱のあまり「ガ、デム……」と名乗った。現行世界では発音から「ガッデム」が定着。
グラマン ── 剣術大会後の消息不明
EP38 周辺
「地龍殺し」の異名を持つ元冒険者グラマン・セラ・ロックガルドは、剣術大会の後に消息を断つ。世間の噂は尽きず──アステール家に見切りをつけて姿を消した、他家の刺客に殺された、等々──最も信憑性をもって囁かれたのは、主君ハイン自身の手で処断されたという説である。
本来のオーマは帝都の負の感情を餌に成長した低級悪霊。貴族たちの邪念を増大させ利己的な行動へ駆り立てる。結果、貴族たちは勇者の存在を疎ましく思い、最終的にアゼルら勇者一行を排除しようと画策するまでに至る。暗黒の法に傾倒したハインは、オーマにとって単なる餌の一種でしかなかった。
被害者たち
堅実な冒険者として知られた四兄妹(サヴァトラ他)は、末妹カレルの治療費を稼ぐため『攫い舌のボギー・ワン・フロッグ』に挑み、全滅する。兄たちは魔物の一部となり苦悶の表情で助けを乞う姿を長兄に見せながら、永劫の苦しみを味わい続けた。帝都に残されたカレルは兄たちの帰りを待ち続けたが、病が進行し、治療薬も買えず、安宿の一室で孤独の中に息を引き取った。
銅等級の冒険者パーティ『紅の花弁』は、強化個体のストーン・ビートル(通常種の倍の体躯、黒輝石めいた甲殻、金等級推奨)に遭遇。シルヴィは鉤爪で胴体を薙がれ即死。ミーナは腕を引きちぎられ背中を貫かれて死亡。ヴィオラは短剣で甲殻の隙間に飛び込むも頭部を潰される。ルイーザは殺されず巣穴に運ばれて苗床にされ、七日間生きた。体内で孵化した幼体が内臓を食い破って外に出るまで、銅等級前衛として鍛えた肉体が皮肉にも彼女の生存時間を延ばした。
銀狼の牙を皮切りに捜索の冒険者たちを次々と捕食し、嘆きの沼の他の魔物まで取り込んで成長。体躯は十メトル超、体表には数百の人間の顔が浮かび絶えず悲鳴と怨嗟を上げる。金等級パーティ複数による討伐隊も壊滅し、後に勇者パーティの一員となるはずだった有力冒険者もここで失われた。
参照典拠 ──
EP2「ママは悪役令息が好き」後語り/EP4〜5(セレナ・エスメラルダとの因縁)/EP6〜7(帝都急襲・オルムンド・イグドラ)/EP8「ママとすやすや」後語り(ガッデム経緯)/EP9後語り(婚約破棄)/EP10「劣等と一緒」(フェリの運命)/EP22〜23周辺(オーマの邪悪性)/EP24周辺(ヘルガの魔力病)/EP27周辺(帝国滅亡までの七年)/EP35〜36「剣術大会」(ハインの変容・十二公家除名)/EP38周辺(グラマンの消息)/EP55周辺(アステール家と亜人種)/EP89〜93周辺(不死王ファビアンとエイラ)/EP126周辺(グルンベルドとアヴィアナ)/EP140「ママが好き(完)」── 第一章総括章(本節の骨格)/EP144〜145周辺(紅の花弁)
ハインの魔術
HAIN'S INCANTATIONS
作中でハインが詠唱を伴って行使した魔術の一覧。ハインは「理を解せば最小限の魔力で魔術が扱える」ため触媒は不要で、行使する魔術の大半はオリジナル・スペル。以下、典拠となるEP/行番号を併記。
ラ・ファール(飛翔)
LA-FAR — flight
詠唱──ラ・ファール(飛翔)
アステール家血継(星辰魔術)。宙に浮かび高速飛行する術。名称宣告のみの短詠唱。ハインの飛翔最高速度は時速およそ二万五千キロルで、ユグドラの森から帝都まで二分とかからない。
ウィ・プル(斥力場)
WHI-PUL — repulsion field
詠唱──ウィ・プル(斥力場)
アステール家血継。薄い斥力膜を張り、物理攻撃を押し返す防御魔術。大斧の刃を紙一枚の距離でぴたりと止めるなど、出力は使用者の魔力量に比例する。
グラウ・ヴィス(引力場)
GRAU-VIS — attraction field
詠唱──グラウ・ヴィス(引力場)
アステール家直系にしか扱えない血継魔術。星と星の間に働く大いなる力の再現。自身と対象を星に見立て、対象を強制的に眼前へ召し出す。授業中に私語を垂れる生徒を教壇前へ引きずり出す使い方もする。
地極星母重鎖陣(テラ・クレイドル)
TERRA CRADLE — gravity chains of the mother earth
詠唱(星喚びの祈祷)母たる地神へ、我が子を害さんとする仇に対して母の怒りを賜らんことを──(祈祷内容。具体文言は明示されず)
魔術名宣告──地極星母重鎖陣(テラ・クレイドル)
母たる地神の怒りの具現たる重力鎖。超重力で敵を地に縛りつけ圧殺する。ハイン曰く「お前の立つその場だけが重くない。一歩でも踏み出せば潰れる」。ユグドラの白い塔を収縮潰壊させた大規模行使例あり。
星爆破孔天光弓(アステル・ストライク)
ASTEL STRIKE — meteoric star-bow
詠唱(星喚びの祈祷)──ヴァー・レイ・ロブレス・オムニ・ス・ファレス。星蓋よ、砕けて墜ちよ
解放詠唱『星よ! 天より来たりて破砕せよ! 星爆破孔天光弓(アステル・ストライク)!』
遙か星界とチャンネルを繋ぎ、宇宙空間に漂う直近の小惑星を強く誘引して敵に叩きつける。本編で使用されたのは直径5メトル級の隕石だが、これはハインが魔力を抑えた結果。巨大な王城も一撃で粉砕する威力。
逆星塵滅無辺無尽光(ウヌス・ラー)
UNUS LA — particle-theory original spell
詠唱『廻り回りて回帰せよ! 逆星塵滅無辺無尽光(ウヌス・ラー)!』
ハインが粒理論を応用して編み出したオリジナル・スペル。物質や存在を根源の粒へと還元・回帰させる大威力魔術。ハインが行使する魔術の大半はオリジナル・スペル。
超最強劣等絶滅破壊砲(オメガ・レイ)
OMEGA RAY — solar-focused annihilation cannon
詠唱『灼気在れ! 超最強劣等絶滅破壊砲(オメガ・レイ)!!』
幼少期に光を束ねて焼き切る遊びを、遠距離砲撃魔術として再構築したオリジナル・スペル。大気中の水蒸気を制御して直径約五キロメートルの原子レベル結晶レンズを形成し、太陽光を集束。出力はテラワット級、局所的にはペタワット級。
星の火
STAR FIRE — nuclear fusion incantation
宣告「劣等、悉く星の火の前に燃え尽きるべし」
詠唱──『ラ・バ・ヌーラ・ヴェニト(来たれ、大日輪の法界よ)』
ハインが振るう最大攻撃魔術。原子核融合によって生み出される膨大な熱エネルギーで、敵とその魔術を一切合切焼き払う。「バ」は「バン」とも読み、あらゆる厄災を退ける太陽神の加護を意味する。発動に先立ち世界を護るための結界を自前で構築することが前提。魔王ベルゼルを復活不能なまでに消滅させた。
星圏破空(アナイ・ア・レイション)
ANNIHILATION — vacuum annihilation field
精霊召喚(四精+星神)──『スピリトゥス・テルラエ(大地の精霊よ)』
──『スピリトゥス・イグニス(炎の精霊よ)』
──『スピリトゥス・アクワエ(水の精霊よ)』
──『スピリトゥス・ウェンティ(風の精霊よ)』
──『デウス・ステルラルム・マグヌス(大いなる星神よ)』
発動詠唱──『ダ・マニブス・イン・ディスクリミネイト!(万理を砕く槌となれ)』
宣告「死ねィ! 劣等共! 『星圏破空(アナイ・ア・レイション)』」
作用点から半径六十九キロル圏内を真空地帯に陥れる広域殲滅魔術。圏内の生物は呼吸不能、血液沸騰、内臓崩壊で例外なく絶命。境界では気圧差による突風が発生し、巻き込まれた者は宙に舞い上げられる。数十万の合従軍を一挙に殲滅したハインの戦略級魔術。
劣等殲滅冥界波(オキシジェン・デストロイヤー)
OXYGEN DESTROYER — aquatic particle annihilation
詠唱(古代語)────マーテル・テ・アモー、テ・アモー、スペロー・テ・イン・アエテルヌム・サーナム・マネーレ。
母上の御世に仇なす不浄よ、その結合を解き、無に還れ
発動宣告「劣等殲滅冥界波(オキシジェン・デストロイヤー)!」
右足を大地(氷原)に叩きつけて発動するオリジナル・スペル。ハインの魔力波が水中の『生命の粒』に接触し、その構造を『死の粒』へ書き換える。水棲生物は体内から崩壊し、水そのものが猛毒と化す。詠唱の意は「母よ、愛しています、愛しています、永遠に健やかで在りますように」。母への祈りが殲滅魔術の駆動源となる典型例。